「日本死ね!!」という短絡的思考の怖さ

 流行語とかで刷り込むことが流行っていたり、それを支持する方達が批判的言説を叩いたりと、人をどうしてもその方向に向かわせたいとの力は止むことはありません。
 本のタイトルに「日本死ね」と書いているから増田に書かれたり某政党が利用するような内容とは一線を画しています。非常にまじめで、内容は「日本死ね」などと正反対の内容が書かれています。
 著者の「即効マネジメント」も拝読させて頂きました。小零細企業の労働者には少し難しかったようで、マネジメントの難しさを痛感させられました。
 同時に読んでいたマネジメント本は後で書くことにします。

海老原 嗣生のお祈りメール来た、日本死ね 「日本型新卒一括採用」を考える (文春新書)

0章 就活って今、どうなっているの?何が問題になの?(P11)

 著者は、昔は放置プレーでお祈りメールはIT化によるものではあるが、本質的には「日本型雇用のひずみ」=「基礎能力と肌合い採用」という指摘をしています。現在の就職活動のIT化は「機会の平等」を齎したかもしれませんが「痛み」も可視化することになったわけです。地方から自分は出来ると思って東大に入っても、叩きのめされるのと同様のショックを入学時ではなく卒業を控えた就職時に味わうことで、今までの自分がしてきたことが否定される感覚に陥ってしまうわけです。これは永遠に解決しない問題です。自分自身で呑み込むしかありません。
 そうした思いが短絡的な「もっと根本的に日本型を排し、欧米型の雇用システムを取り入れろ(P19)」に対して第2・3章で「欧米型のメリット」「日本型雇用の気づきにくいメリット」を紹介しています。そのため単純な「雇用の流動化」「同一労働同一賃金」とは一線を画しています。
 
1章 100年論争を棚上げするための処方箋(P23)
2章 やめられない止まらない日本型雇用(P85)
 欧米の雇用契約が意味すること(P89)

 「やるべき職務が定められている」職務限定型雇用は、企業側に人事を勝手に決めるというイニシアティブがない。日本型雇用は逆に企業が人事権を持たないと「大量の配転」が出来ない仕組み。空席を埋める場合、人材補充を外部調達する欧米企業と内部調達し、足りない補充は新卒で対応する日本企業の「企業の人事イニシアティブ(業務命令権)」=「無限定雇用」の仕組みとしています。そのため3年以内で辞める社員が出てくる仕組みでもあるということです。

・不況をもはねかえす、ヒミツの報酬制度(P101)
  解雇が困難な本当の理由

 著者は「日本の法律には、厳しく解雇を制限する条文や不当解雇に対する懲罰規定などは存在しない。」としています。「雇用の流動化」を主張するネオリベ系経営者やコンサルタント・経済学者の主張とは違います。これは、hamachan先生が常々指摘することと同じです。また理由も「無限定な雇用慣習である」となっています。

「本来解雇とは『仕事が無くなる(整理解雇)』か、その『仕事が全うできない(能力解雇)』ときに起きる。」(P103)

ところが日本型雇用では、無限定であるがゆえに「配置転換」や「他の仕事へ異動」が出来る「業務命令権」の行使が強いために、解雇することができず、労基署の監督官に「その仕事かないならば別の仕事に従事させ、時間まで働かせなさい。」と指導を受けることになります。転勤のない小零細企業でも「他の仕事への移動」は可能な「業務命令権」が行使できるということがあるからです。「むやみに解雇はできない」義務が課せられる。

残業代と日本型賞与は優れた調整弁(P104)

 「非正規にも賞与を支給」という方針が政府から出ましたが、労務費を固定費としてとして捉えるコンサルタントのせいで歪んでいることについて、著者は違いを指摘をしています。
 「実は、日本型企業の人件費は固定部分が小さく、変動比率が高い。だから、景況による業績変動をよく吸収し、不況時に整理解雇をうまく避けられるようになっている。変動比率を上げることに大きく寄与しているのが、残業代と賞与だ。」(P104)

 この指摘は、政府による動きに疑問を感じさせてもらう内容でした。

「非正規にも賞与を支給」政府ガイドライン案で議論 一方で「正社員すら賞与が出ない状況を何とかしろ」という声も

非正社員に正社員並の責任や業務をさせているなら、賞与支給は当たり前」
格差を埋めるのなら「正社員のボーナスが出なくなるかも」という懸念の声も

 今回の「賞与」は「一時金」という性格ではなく、公務員と同じ法的拘束力を伴う取扱いでの「賞与」なのか「企業業績に応じた利益配分」なのか不明です。内部留保は現預金ではないということだったのがアベノミクスでは「現預金」と経済学者が勝手に会計基準を変更したということなのでしょうか!?
 それにしても賞与は、法律上は使用者が支払義務を負うものではありませんが、ある時期に「求職のため賞与がある」ほうが良いと職安等が勧奨した経緯から記載しているところが多いです。それでも「業績によって支給しないことがある」という記載により、払わないことができるようになっています。
 例えば就業規則に「賞与は、年2回とし、賃金の5.5ヵ月分とする。なお、夏期賞与は2.3ヵ月、冬期賞与は3.2ヵ月とする。」などが記載されている場合、有期雇用契約者にも同様の支払いということになります。社労士によりこのように記載することはまずありませんが、10人未満の会社で、就業規則をまだ作成していない企業は対応しないと大変なことになる可能性があるでしょう。結局は「支給慣行がある」という「慣習法」を明文化する動きということなのかもしれません。
 なお、同一労働同一賃金での「賞与」は筋が悪いと労務屋さんが批判的です。

■「雇用政策」働き方改革・フォロー

本当に同一労働同一賃金をやるのであればまずは日本でもベンチマーク対象となるような、賞与もなく昇給もわずかなジョブ型正社員を主流にしていくところから始めなければいけないわけで、それには相当の長期を要する

 同一労働同一賃金だから非正規雇用(有期雇用契約)も定期昇給と賞与を付けるのが当然だという方達がいます。短絡過ぎて怖いとしか言いようがありません。
 日本型雇用契約における年齢給(50歳をピークとする賃金カーブ)については、「若年層を不当に安く使っている」、ホステージ理論によって、「生産性が低下している」原因と批判されているというのが、大方のところです。
 労務屋さんが指摘するとおり、「同一労働同一賃金」である「ジョブ型正社員(職務給)」の基本は「定期昇給無し」「賞与無し」です。短絡的な方達は「日本型雇用契約(年齢給)」を維持しつつ「同一労働同一賃金」と言っているわけです。現状通り若年層は安く使い放題であり続けたいし、生産性が低下しつづけることを放置しろ。と、主張していることになります。たしかに「大企業なら」雇い続けることも可能でしょう。しかし、直接雇用契約を結んでいればということですから、派遣労働者へ徹底して切り替えることで、賞与適用を回避する動きが強まることが懸念されます。ただそれは、派遣会社の業績に応じた賞与の支払いを促すことでもあるので、派遣登録の仕方で変わってくる話かもしれません。
 今回のこの問題が、どの企業をターゲットにしているのかが見えていないことで、対応がかなり違うものとなると思われます。


3章 欧米型雇用の不都合な真実(p109)
 欧米型では未経験者の大量採用は無い
 職務別採用の厳しさ

 著者による指摘は「同一労働同一賃金」を標榜する人たちにとっては、非常に都合が悪い内容です。そしてインターンシップ(無報酬又は最低賃金未満)が非正規雇用の代替で利用されつつ、企業にとっては優秀な学生の囲い込みとしても機能しているというものです。未経験者は採用しないジョブ型雇用では、インターンシップにより職務経験を手に入れる代償として「搾取」を受けいれているというものでした。
 欧州企業にとっての雇用調整弁としてインターン。しかも日本では労災保険適用の配慮とは裏腹に、「無保険」という現実。

 計画性も職務定義もない日本以上の無限定労働(P128) 

インターンシップよりは安全」と言われる「CFA(見習い訓練生の採用管理)」も最低時給の53%と非正規労働者の報酬にさえ到底及ばない水準で見習い訓練は続けられている現実が日本では語られていないと著者は嘆きます。欧米型雇用では「未経験者」とは「搾取」や「雇用調整弁」であるということです。名門大学の学生でこのような取り扱いなのですから、北アフリカ・中東等からの移民「未経験者」を求めるEUの狂気を垣間見るものでした。

4章 進歩的提言の限界(P157)

 欧米型の「エリートとノンエリートをはっきりと分ける」が日本にはなかなか困難である以上「日本型雇用」はなかなか変われないとしています。欧米では「同一労働同一賃金」ガーを簡単に主張する人たちが如何に怖い存在であるか考えさせられる内容です。

 そういう中で、日本の経営者団体の提言は表面的に日本型雇用の批判をしているとしています。つまり、大企業では正社員としては難しくても中小企業では正社員となっているからです。ただ、中小企業の離職が多い点として、経営者も労働者も日本型雇用のメリットを享受できていないからだ。としています。

5章 日本型がかえねばならない本当の短所(P203)

 「肌合い型採用」はコミュニケ―ションを求められ続けます。昨今の風潮から「肌の合わない上司と部下や同僚」との摩擦をどうするかになります。これを著者は「中小企業すべてが抱える問題」としています。また、日本型雇用の欠点を補うヒントもあるとしています。

 地方経済の衰退・縮小は、大学進学で東京等の大都市へ向いそのまま大都市圏に住み続けることで東京一極集中・県庁所在地一人勝ちとなっています。これらを改善することもふくめ、「大学4年後期の肌合い合わせのインターンシップ」(P216)を提言しています。

 著者は「大学に行かせない」欧州型よりも、「両方いいとこどり」の日本型(P233)で、少しは変わるのではないかとしています。この辺りはマシナリさんの「いいとこどり」と同じなのかもしれません。