付加価値税とアベノミク その2
○賃上げと賃下げを同時に要求するアベコノミクスの安倍政権
経団連への賃上げ要請と最低賃金引き上げを政策として実行しているアベノミクスは、「賃上げ」に取組んでいます。また、時間外労働削減や休日を増やす政策を行っており、こちらは「賃下げ」です。所定内給与である賃金を上げる「賃上げ」と所定外給与を含む総所得を減らす「賃下げ」を同時に行うと言う、どちらか一方だけを重視する人にとっては、批判的な行動になる動きと言ってよいでしょう。
総所得が減少すれば「所得税」の税収は下がります。同様に、消費税も下がります。法人税は上がると基幹3税の動きは様々です。このような動きをみれば、人件費に対してどのような対応が望ましいと考えるかは、その立場によって様々になるのは当然のこと。
「付加価値税と賃金と労働者」の冒頭で書きましたが、「賃上げ」は「所定内給与」を上げることになりますし、「時間外労働削減」は「時間外手当削減」で「所定外給与」の引き下げです。総労働時間の短縮と所定内賃金を上げることで「生産性を向上」させることを目的としていますが、国がここまで関与しなくては出来ないほど、民間企業の労務管理能力の硬直性が見られるということになるのでしょう。
この硬直性は「無駄な会議」「無駄なデスクワーク」「パソコンの利用」等のICT化が原因となっているのか、「賃金の上方硬直性」へとつながっているのかは良くわかりません。この辺りは、色々な著作物等を参考にするしかないところですね。また、「マネジメント・システム」そのものが、効率性を落している可能性もあります。「カイゼン」のための「改善」を無理やり作る。「何もしないのはおかしい。」コンサルに指摘されてスパイラル的に悪化する企業も多い事でしょうから、コンサルタントの拡大が、「生産性の低下」と「賃金の上方硬直性」を高めている可能性も高そうですね。
「残業代ゼロ」とは「残業時間をゼロ」にした成果のことなのか、残業をしないことを継続した成果なのか、言葉は難しいです。「付加価値税と賃金と労働者」の冒頭でオランダの労働者は時間外労働をせず、高めの報酬を手に入れていることや、突発的な作業への対応も時間内に終わらせる努力をします。総労働時間を増やさない努力と成果を手に入れた結果、「残業ゼロ」で「残業代ゼロ」の社会となっています。日本が一気にこのような社会になることはありません。様々なハードルを越えなくてはなりませんが、その一歩が、アベノミクスでの「賃上げ」と「賃下げ」だと思うのです。単純な「残業代ゼロ」への反応は、若い世代が求めるオランダ型のような社会へは向かうことを困難にすることでしょう。
でも、現代の若者世代の価値観に合わせるためにも、上の世代が合わせざるを得ないのですが、頑迷な生活給に縛られた考えでは進むことは無いだろうと考えられます。
※追記
「アベコノミクス」というのは、安倍政権に批判的な方達が使用する表現ですが、二本目の矢である「機動的財政政策」を的確に表している表現でもあります。私としては、好意的な意味合いで使用しています。機動的財政政策は、緊縮財政的な面を帯びながら、ステークホルダーに対して様々な配慮が滲んだものであることを表した表現とも受け取れるため、一面しか見れない方にとっては、どうしても批判的な説明の理由として使われることができるのです。
最低賃金引上げ、定期昇給の実施である「賃上げ」は、所得税・住民税・法定福利費・消費税の税収を増やし、法人税は下がります。時間外労働削減(時間外手当・休日出勤手当削減)は、総所得を削減する「賃下げ」ですから、所得税・住民税・消費税・法定福利費の税収は下がり、法人税が上がることに成ります。税収の動きは中々複雑で単純な見方は出来ませので、消費税だけを取り上げたり、法人税だけを上げて語るのは全体を見失うことになるので注意が必要なのです。
なお、法定福利費の社会保険料・厚生年金については、4月・5月・6月の総所得+交通費の合計額の平均で算定される報酬月額によって、変わる為一概には言えません。昔は、諸先輩方にこの時期の残業は控えるようにというのは、社会保険料を抑制し可処分所得を下げない事ではありましたが、それは年功型賃金であればこそです。
アベコノミクスと揶揄される安倍政権ですが、賃上げ・賃下げの機動的財政政策の意味や意義、その帰結をとらえたうえでの批判であって貰いたいものです。現状の批判は極めて短絡的で、とても労働者のために批判しているものではないのは政策内容を全く理解できていないことが良く分る為です。そのような方達が、リベラルと称したり、労働者の味方のわうなフリを装い、結果として、新自由主義の推進、金融資本主義を増長させていることが残念でなりません。