付加価値税と賃金と労働者 その3

付加価値税の納税額を上げる最低賃金時給1500円運動

 前回に、付加価値税(消費税)の納税額を上げるのは「労働価値(労働分配率を上げる)」を最大化することをお話ししました。米国における格差反対運動「オキュパイ・ウォール・ストリート」「ファイト・フォー・15ダラーズ(15ドルのための闘争)」を真似て、国会前デモ「最低賃金(時給)1500円」などをした学生たちがどこまで理解していたかは不明ですが、最低賃金(時給)1500円にすることは、付加価値税の納税額を上げる行為となります。まあ、あの学生の後ろにいる組織が教えていたとは思えませんし、普段は消費税増税反対、税金は戦費調達の方達ですからね。

 労働価値の増加により法人税は自動的に下がってしまいますが、所得税・住民税・法定福利費・消費税は増加する「ビルト・イン・スタビライザー」が機能しているともいえるし、「賃金の下方硬直性」の恩恵を最大限に生かすことができるからこその安定財源ということになります。

 時間外労働を削減し、ただ賃金総額を減少させる労働運動は、労働者に何のメリットも齎しません。同時に所定内給与を高めることが大事なのです。最低賃金(時給)1500円運動が、経営側の節税意識と労働分配率と配当バランスを無視している限りは難しいというか、単に無視される活動でしかありません。

付加価値税子ども手当並びに給付金 そしてベーシック・インカム

 民主党政権で誕生した「子ども手当」ですが、所得税・住民税に対しては、「年少控除廃止」という増税の代償を支払うことになりました。この制度はそれだけだったんでしょうか。実は、付加価値税(消費税)に対する影響もありました。付加価値税(消費税)を減税するもっとも有効な手段。それは所定内給与の削減です。

 でも日本の所定内給与は減っていませんでしたね。所定内給与を構成する「基本給」と「諸手当」のうち、「諸手当」を削減したのが「子ども手当」なんです。企業経営者は、「子ども手当」創設により「家族手当」等を廃止または削減しました。つまり所定内給与の削減により「付加価値税の減税に成功」したというわけです。付加価値税の減税は、所得税・住民税にまで波及するため影響は大きいと言えます。「子ども手当」が全額消費に消えることは無いのでなおさら景気に対しての効果は低く、将来の税収減により歳出削減圧力が強まることになります。

 リフレ派は何かと「給付金」または「ベーシック・インカム」を求めます。先ほどの付加価値税の減税という「行動」を考えてみてください。給付金やベーシック・インカムによる所得は、「所定内給与」削減圧力だということです。確かに、給付金やベーシック・インカムの所得には所得税・住民税は課税されないかもしれませんが、それは驚くべき副作用を伴うのです。

 所定内給与の削減は、将来の年金も下がることを意味しますし、法定福利費(健康保険料・厚生年金・雇用保険)の収入を落すことでセーフティネットを弱体化させるということになります。

 リフレ派が求めているものとは「所定内給与(賃金)の大規模な削減」となり、リフレ政策の根幹が「賃金削減による物価下落圧力を高める」「納税額を減らし、歳出を削減する」「民間企業の現金保有を高める」ことにあるのは間違いありません。

 飯田泰之明治大学准教授等が奨めるリフレ政策は「賃金削減」なしには達成しえないことになります。また、井上 智洋 駒澤大学経済学部の教員/早稲田大学非常勤講師/慶應SFC研究所研究員の「ヘリコプターマネー」も「節税」「セーフティネットの破壊」「民間企業現金保有増」の仕組みへの対応となります。

追記※経営者にとって都合の良い話は新自由主義型の「小さな政府」になりがちで、大きな政府による社会全体の厚生とは真逆の動きというのが良く分る事例となります。ベーシック・インカムはその見た目と違い、「勤労意欲の減退」以上に「持続可能な社会(サステナブルソサエティ)」を揺るがす「社会への参画意欲の減退」の実害が大きいのではないかと考えられます。