付加価値税と賃金と経営者 その2

付加価値税のマクロ的な課税科目から見る「節税行動」

 「不課税」「非課税」というのは、「消費税が掛らない」で得をしたというのは消費者側から見た場合ですが、納税者側から見ると真逆になるのです。「収益−費用」「益金−損金」ではなく「(不・非課税費用+利益(−損失))×付加価値税率(消費税率8%)=課税収益(仮受消費税)−課税費用(仮払消費税)」となり、赤字でも納付するとは人件費を節税対策で過大に計上しても何の意味もないということだからです。

 共産党指揮下の全商連(全国商工団体連合会)と民商(民主商工会)が盛んに「消費税増税反対」を主張するのですが、その最大の理由が「役員報酬や家族への給料を支払って、法人税減税の恩恵を受けても消費税で回収される。納税して悔しい。自分以外の貧困対策に使われるなんて耐えられない。」という不満です。共産主義者が資本家への所得移転への課税措置に対して不満を述べるというのが中々興味深いところでもあります。

 さらに「付加価値税(消費税)は輸出戻し税で大企業が儲かる」というのもありますが、マクロ的に見て課税されているのが国内の「労働価値(所得)」なのですから、他国へ納税するのは無理があります。そのため還付されて当然だともいえるのです。つまり関税などの間接税ではなくほぼ直接税であると捉えて貰う事が必要になります。

 付加価値税(消費税)が10%の際に導入される軽減税率の考え方も同様です。消費者側は「税率が安い」と思いますが、納税者側は「税負担が増える」となります。これは仕入れ税額控除の課税科目とは、消費税の納税額を減じる(減税圧力)であるのに対し、軽減税率は納税額を減じる額を少なくする制度(増税圧力)だからです。消費者と納税者ではことなる視点が必要となり、納税者である経営者はその対応に苦慮するのです。

 そのため、リフレ派経済学者飯田泰之明治大学准教授が「軽減税率反対」を唱える理由は、「消費者には良いが、納税者である自分には都合が悪い(納税額が増える)制度」であるのがわかります。リフレ派経済学者の経済政策が「歳入抑制及び歳出抑制」になるのも行動経済学「損失回避特性」に基づく認知特性の表出そのものなので、非常に分かり易い行動です。リフレ派経済学者が思考の原点である「初期保有効果」の「参照点」を納税額においていることが明確に分かることになる事例なのです。

 ただ、日本の場合、新聞・雑誌などが対象となりますが、ご安心を。マスメディア関係者は日本でも有数の高所得者が多い企業ですから、高い人件費分の付加価値税(消費税)納税額が減ることはありません。但し、新聞を購入する納税者(ホテル等)は増税になるので、対応がはっきりとでる可能性があります。

 消費税の不課税・非課税科目とは何でしょう。主だったものを挙げると、※勘定科目は産業によって違います。それぞれの企業会計に合わせることが必要です。

収益科目(非課税)
売上(商品券)、不動産(土地)売上、土地賃借料、住宅家賃・共益費収入、リース料収入(金利相当)

費用科目(非課税・不課税)
役員報酬、従業員給料・賞与、退職金、法定福利費、福利厚生費(慶弔費用、共済)、出向料、支払手数料(信販会社への手数料、海外送金手数料)、支払運賃(国際輸送)、販売促進費(図書券、ビール券等)、接待交際費(商品券、慶弔費用)、車両費(自賠責、重量税)、減価償却費(有形・無形・繰延資産)、地代家賃(社員寮、地代)、通信費(国際電話料金、国際郵便)、租税公課(固定資産税、印紙、自動車税、各種証明書等)、寄付金、諸会費(年会費)、保険料(生保・損保)

営業外収益(非課税・不課税)
受取利息、受取配当金、為替差益、有価証券売却益、雑収入(受取保険金、賠償金等)

営業外費用(非課税・不課税)
 支払利息・割引、信用保証料、資産評価損、有価証券売却損、雑損失(違約金、賠償金)

 経営者は売上と利益の他に節税対策を行います。
 これは未来永劫変わらぬ問題ですが、では付加価値税(消費税)の節税対策とは何でしょう。費用科目で一番金額が大きい不課税科目は「従業員給料・賞与」です。次いで「役員報酬」「法定福利費」「減価償却費」「保険料」となっていきます。そのため課税費用の割合が高まれば、消費税が減ることを利用して「従業員給料・賞与」「役員報酬」「法定福利費」を「外注費」に置き換える脱税行為が後を絶ちません。共産党は「労働者派遣(労務外注費)」に置き換えれば消費税を節税できるとしているのは確かにそうですが、派遣会社は雇用した社員へ「従業員給料・賞与」「法定福利費」を支払わなくてはいけませんから、派遣会社を調査すれば、脱税かサービスの提供かを判別することは簡単です。いまでは派遣会社は雇用契約によって拘束されるので「従業員給料・賞与」「法定福利費」を適切に支払わなくてはいけません。それは「消費税」を適切に納付することでもあります。
 つまり、付加価値税(消費税)の納税額を上げるのは「労働価値(労働分配率を上げる)」を最大化することになります。でも人件費の増加で法人税は自動的に下がってしまいますが、所得税・住民税・法定福利費・消費税は増加する「ビルト・イン・スタビライザー」が機能しているともいえるのです。
 しかし、費用の増大により「剰余価値」が、あまり下がり過ぎれば、株主・投資等は配当が貰えなくなりますから「物言う株主(ハゲタカ様ともいう)」は、経営者に苦言を呈するようになります。そうすると経営者は調整が求められることになりますので、労働価値の抑制を行う経営も考えるようになる。というわけです。

 消費税を減らす節税は、課税費用割合を高めることになりますが、それは不課税科目である「従業員給料・賞与」「役員報酬」「法定福利費」「減価償却費」「保険料」等を減らすということになります。「プロパー社員を派遣に置き換える(派遣労働者の増加)」「短期労働者を増やす」「賞与の抑制」「時間外労働の抑制」「給与体系の改正」「設備投資抑制」などでしょうか。その結果、不課税科目の減額で消費税は節税したかもしれませんが、コストカットした分「剰余価値」が増大することになります。経営者も株主も儲かったということになるのでしょうか。残念ながらそうではありません。付加価値税(消費税)は「剰余価値」にも課税されているのです。

 マクロ的に見ると最終的に課税される大科目とは「付加価値=労働価値+剰余価値」でしたね。課税逃れができにくい構造になっているのが付加価値税の特徴と言えます。経営者が利益を出そうと人件費を削減して得た利益にもしっかり課税され、国・都道府県の再分配の原資へと使われることになります。内部留保ガーというのは、人件費抑制によって得た利益によって成り立っていると見てしまいがちですが、大企業の場合は殆んどが、海外子会社との連結会計によるものです。中小零細企業についても人件費抑制で内部留保を積み増しするのは難しくなっているのが本当のところです。