社会保障の難しさ(マシナリさんへのご返事)

 マシナリさんの 団塊の世代が好きな「一点突破、全面展開」というやつのエントリーに、下記の通りコメントいたしました。

良くする御大は、消費税も毎年1%上げるなど実質的には消費税増税に賛成しているとみています。税収の支出が緊縮傾向にあることに関しては批判してますので、個人消費拡大の提案の一つとして、低所得者可処分所得増をするため、社会保険料の個人負担分を一定期間、国が免除する仕組みを提案している中での話だと思います。現在の被災地での被災者国民健康保険料免除等の施策を全国民へ拡大する場合、社会保険料は支出と給付がセットで機能しているため、良くする御大としては「貯金ではない」ことを理解しつつ、「貯蓄性」の解釈により「社会保険料負担軽減の財源」に出来ないか。という提案なのだと思います。
 この辺りは民間保険の新保険契約時の支払保険料の積み立て分によって、新保険料の月額を維持または下げる仕組みを応用しているのだと考えられます。
 リフレ派の大好きな鈴木亘教授の「積立方式」とは少し違っていると思います。それにしてもhamachan先生は捕捉するのが早いですね。
2016/02/01(月) 13:34:18 | URL | hahnela03

マシナリさんの標題が「現行の社会保障制度を破壊する蟻の一穴」として、「貯金」という捉え方に対して過敏に反応している興味深いと感じました。また、社会保障が専門の平家さんの反応も早かったし、自分なんかよりも丁寧なのでコメントしたのは恥ずかしい限りです。
それでもマシナリさんから丁寧なご指摘を頂いたのでご返事を書いてみます。

> hahnela03さん

ご教示ありがとうございます。

> 良くする御大は、消費税も毎年1%上げるなど実質的には消費税増税に賛成しているとみています。税収の支出が緊縮傾向にあることに関しては批判してますので、個人消費拡大の提案の一つとして、低所得者可処分所得増をするため、社会保険料の個人負担分を一定期間、国が免除する仕組みを提案している中での話だと思います。

私はこちらのブログをすべて確認しているわけではないので、私の認識不足の点があればお詫びいたします。できれば、そのようなご提案をされているエントリをご教示いただけるとありがたく思います。

> 良くする御大としては「貯金ではない」ことを理解しつつ、「貯蓄性」の解釈により「社会保険料負担軽減の財源」に出来ないか。という提案なのだと思います。

平家さんのところにもコメントいたしましたが、社会保険による再分配は防貧機能を担うものであり、それを救貧機能のために援用するのはあくまで例外的な扱いとすべきと考えております。そのような観点からすると、子育てという本来的な生活の営みを保険事故とすることは、たとえそれが保険数理として成り立つ見込みがあるとしても、日本における保険制度と再分配制度の役割分担や本来の機能を損ねるのではないかというのが私の懸念です。

良くする御大は政府批判を行っており、消費税増税+法人税減税の組み合わせを「緊縮財政」と言ったりしています。つまり十分な財源保確保しないで需要不足を続けることへの政府批判と言うことですね。

増税で信認は守れない - 経済を良くするって、どうすれば

 むろん、消費増税が不要と言っているのではない。高齢化に伴って、社会保障費が毎年1兆円強増えていくのであるから、2年に一度、1%ずつ消費税を上げる計画を持っておくことは絶対に必要である。つまり、インフレリスクを消すために、増税計画は用意しておくべきなのである。加えて、政治的には難しかろうが、一定の物価上昇が見られたら、柔軟に上げられるようにしておけば、もう完璧である。

 現行制度を維持するためにも社会保障費に対して、どのように向き合うかという事ですね。


経済思想が変わるとき 5

消費増税は、そのための苦行なのだろう。失敗を目の前にしたとき、企業の利益最大化のために、これほど金融緩和や法人減税をしたのに、なぜ設備投資は出て来ないのかと、ひとしきり嘆いた後は、需要を抜いてリスクを与えてはダメなのだという、無垢の人なら素直に受け入れることを、従来の経済学の信者も悟ってほしい。そこで悟りを開けず、「超」異次元緩和だの、「超」法人減税だのを求めるといった、救われないことに走ってはいかんよ。

マシナリさんの危惧する材料となった「貯蓄性」の例を出しつつ、社会保障費を含めた公的需要を抜くリスクを説明しています。国民が望む公的サービスにどのように向かうべきか、財源問題として「消費税」を提示していますが、マシナリさんの御指摘以前に同様の危惧を抱いた、プリン社長から下記の通りの御指摘がすでにありました。

╚(*-*)╝ ‏@pppppppurin その良くする御大の、残されるのは低金利と低成長は結構なんだが「先に」何%だろうが消費税増税して、社会保障に当てましょう!!って自論は、もう一度ご自身の足元は見つめ直す事を、強く勧めたいわ
1:27 - 2013年11月24日

 このエントリーは文脈の中に、危惧を抱かせるものが含まれているということです。鋭敏な方は反応し、私のような愚鈍のものは、そのままスルーしているということです。
 今回、読み直してマシナリさんやプリン社長がエントリーごとの

ニッポンの理想・2兆円でできる社会 - 経済を良くするって、どうすれば

3.年金保険料の軽減
 まず、低収入者の保険料を大幅に軽くして自立を促す。具体的には、年収138万円未満の者について、厚生年金の保険料を、労使とも、ほぼゼロの月額500円まで下げ、事実上、健康保険のみの負担にする。これで、年収により16.8〜22.9万円もの負担が軽減され、本人負担の保険料率は年収の5%程度まで低下する。これに要する財源は、わずか4000億円である。

 そして、この4000億円が、パートへの社会保険適用の拡大を一挙に可能にする。現在は、労働時間が30時間未満のパートは、厚生年金に加入できず、ほぼ倍の国民年金の負担をせざるを得ない。それが20時間以上に拡大されるなら、重い負担から解放される。なぜ、この実現が難渋しているかと言えば、経済界が会社側の保険料負担の増大を嫌うからである。

 ところが、低収入者の年金保険料をワンコインにすれば、当然、会社側の負担は、ほぼゼロとなるから、問題の半分は解消される。そして、新たに負担しなければならない健康保険料についても、これは2000億円を要するのだが、先ほどの年金保険料のゼロ化による会社負担分2000億円の軽減で相殺されるのである。

 つまり、会社によってデコボコはあるものの、会社側全体としては、保険料の負担増なしで適用拡大ができるということだ。これで最大のボトルネックが突破される。こういう構図を作れば、会社ごとに損得があっても、激変緩和措置や税などの支援策を用意すれば、合意に至ることは十分に可能であろう。

 むろん、新たに加入する20時間以上のパートの年金保険料をゼロ化する財源も用意しなければならない。これが6400億円である。先ほどの4000億円と合わせ、約1兆円である。これで、「20時間働けば、約5%の負担で、健保に入れ、厚年も受けられる社会」になる。法人減税で9000億円を軽減し、賃上げを要請するより、遥かに効果があるとは思わんかね。

4.年金の引出制度
 ここで、一つ仕掛けを創る。厚年と健保に1年間加入して、きちんと保険料を納めた者には、医療費と学費に使途を限り、払った保険料を引き出せるようにする。例えば、年収100万円の者なら、年金保険料は年間で16.8万円たまるので、これを使えるようにする。代わりに将来の年金給付が減るので、必ずしも返済する必要はない。

 これによって得られる安心感は大きいだろう。いわば、まじめに働けば、万一の医療費や子供の学費を社会保険が助けてくれるということである。もちろん、あまり引き出すと将来の年金が乏しくなるから、80万円以内とか、5年分以内とかの限度は必要だろう。この制度はパートに限る必要もないから、夫婦共に使えば、160万円程度のお金は融通できよう。

 年金担保貸付事業・労災年金担保貸付事業 について現状では、良くする御大には不満がある仕組みとなっているのかもしれません。もしかすると知らないのかもしれません。
 そういう部分がマシナリさんが引っかかったのだと思います。良くする御大なりに、現行の社会保障制度を維持しつつということですが、社会保険料の経費の縮減は、所得税・住民税の税収増(実質増税)となるわけなので、このあたりどのようにするかまでは語られていません。
 低所得者可処分所得改善を社会保険料の縮減から求めつつ、納付した年金を「貯金的な利用」という説明で、次の世代の学資・生活費等に回すということなのでしょう。

 社会保険料の縮減というその点からベーシック・インカム(BI)導入により、現行の社会保障制度を完全に破壊する方達と同様の匂いも感じ取れなくはありません。ただ、リフレ派のようなものとは少し違うと私と捉えています。マシナリさんの危惧する流れは下記のとおりなんだと思います。

おけいはん‏@okeihan45
今年の夏にベーシックインカムをめぐる国民投票がスイスで行われるという。ベーシックインカムの設定額がなんと日本円で30万円。驚きだね。日本の生活保護費の3倍(東京23区一人暮らし基準)。
物価が違うとかそういう問題じゃない。先進国で生きやすい暮らしを保つ金額をリアルに算出してる。

三ツ沢ネオ‏@mzw_neo

一人当たりGDP が、日本36千ドル、スイスは86千ドル。別に日本の生活保護が安すぎるわけではない。医療扶助もある。日本も一律月7万、定率4割所得税で実現可能

三ツ沢ネオ‏@mzw_neo

国民年金生活保護、児童手当が廃止できて、厚生年金、失業保険は民営化(任意化)が可能になる。政府を小さくできる。

年金における努力の拡大 - 経済を良くするって、どうすれば

年金の議論と言うと、負担と給付の問題に関心が向き、公平か否かで白熱しがちだが、本当に大切なのは、一人ひとりの努力の余地を拡大することである。低成長のために給付水準が下がるようなら、1年でも長く働き、より多く保険料を納め、より遅く受給を始めるしかない。子供を持ちながら働き続けられるよう、乳幼児期の少子化対策を充実させることも欠かせない。パートでも厚生年金に加入できないのでは、努力のしようがない。こうした観点から、議論すべきなのである。

 良くする御大にとっては、マシナリさんが指摘する下記の内容の「共同の困難」を国民自身が議論していないことを嘆いているようにもとれますが、政府がそのような国民の民意に引きずられているとも言えますから、「民意」を体現する政府を批判する良くする御大はおかしいのですが、少子化対策や長く働く雇用の在り方など現在の厚労省の対応とほぼ近いところがあります。

 プリンシパル=エージェントによる運用(年金)について大竹先生は「若年世代からの利益を明記すべき」ということですから「租税抵抗の回避」を更に促す行動経済学の実践を考えているのではないでしょうか。現在の社会保険制度をより確実に破壊する仕組み(世代間対立の見える化)を導入したいと経済学者は考えていると捉えています。なのでマシナリさんとは別の見方をしています。たとえば年金定期便や年金通知に、20代で死亡した人数と年金総額及び一人あたりの額を明記され、「あなたは死んだ若者の掛金を受け取ります(受け取っています)」など書かれかねないのですからね。そういうものを導入されたら「賦課方式」そのものが破綻しかねない危惧があるからです。

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 これまでみてきたように、日本の社会保障制度は人々の「共同の困難」に対処したものではない。それはむしろ、制度の分立状況やサービスが過小供給であることを前提に、受益者と非受益者という形で人々を分断させ、リスクを〈私〉化し、受益者負担を導くものである。受益の範囲が狭いために、反対給付を伴わない租税による財源措置では合意を得られない、という理由からだ。受益者負担の導入には、租税抵抗の回避がその根底にある。日本型負担配分の論理とは、このようなものだ。
佐藤・古市『同』p.72