津波被災の記録119

防潮堤用地、取得困難15% 遺産の分割絡み目立つ 宮城

 東日本大震災で被災した宮城県沿岸部で、海岸防潮堤の整備など県が進める公共土木施設の復旧復興事業に必要な用地全体の15%に当たる2300筆が、依然として取得困難な状態となっている。県によると、相続人の所在地が分からないなど土地の権利関係に絡むケースが目立つ。県は、作業の民間委託を検討したり、民法上の制度を利用したりして対策を強化する。
 県によると、5月末時点で取得困難な用地を理由別に見ると、相続人の所在地が分からなかったり、遺産分割協議がまとまっていないなど相続関係が最も多く、1240筆に上った。
 ほかに所有者が多数いる共有地となっているのが350筆、境界が未画定なのが50筆あった。
 残る660筆は、長年放置されている「休眠抵当権」が設定されていたり、土地が差し押さえられていたりと理由もさまざま。地権者が事業に反対している例もあった。
 事業計画の具体化が進めば、取得困難な用地が増える可能性がある。

 県は事業完了の目標を2015年度としており、本年度が用地の取得のヤマ場とみる。用地取得は14年度までに終えたい考えだ。
 懸念されるのがマンパワー不足。県は対策として、用地補償について地権者に説明する業務を民間委託できないかどうか検討を始めた。相続人の所在地確認など土地の相続関係の調査については、昨年から県司法書士会などに委託している。
 用地取得が難しい事例では、民法の財産管理人制度も活用する。同制度では、所有者が不在だったり相続人が不明だったりする場合に当事者に代わり土地を売却できる。
 県はまた、用地取得の迅速化に向け、土地の境界の画定などの管理処分権限を国から市町に移す特例措置を、国に求めている。
 県用地課は「取得困難な用地は多い。復旧・復興事業を目標の時期までに終わらせるため、あらゆる対策を尽くしたい」と話している。


わがこと防災減災 津波てんでんこ 避難と救助、消えぬ迷い

◎「津波てんでんこ」の教え/事前に約束、共倒れ防ぐ/京大防災研究所教授・矢守克也さんに聞く

 東日本大震災の後、「津波てんでんこ」が津波避難の大原則として広く認知された。しかし、人によっては、自力避難できない人を見捨てる身勝手な行動だという誤った印象が持たれている。京大防災研究所の矢守克也教授(防災心理学)は「津波てんでんこには四つの意味がある。親子や地域で正しく浸透させてほしい」と話す。

 −津波てんでんこが全国的に知られるようになった。
 「本来の意味とは違い、われ先に逃げるというセルフィッシュ(自分勝手)な意味との誤解が広がっている。てんでんこを避難マニュアルのように伝えたせいだ。自力避難できない人々を締め出すような印象で、『避難放棄者』が生まれる素地にすらなっている」

 −素早く逃げるという意味以外もあるのか。
 「確かに、自助の原則に貫かれた言葉のように見える。だが、提唱者の山下文男さんが言うように、津波で家族親族が共倒れする悲劇に見舞われてきた三陸地方の人々が、やむにやまれず生みだした『哀(かな)しい教え』でもある。自助だけではない

 −ほかの意味は。
 「逃げる様子は他者に避難を促す率先避難の役割がある。さらに事前に他者と信頼関係を深める点も大きい。信頼せずに迎えにいけば共倒れの恐れがある。親と子、教員と保護者、職場と従業員の家族。それぞれが、てんでんこを事前に約束し、実行することでお互いの命が守られる
 「自分だけが生き延びた場合『てんでんこだから仕方がない』と、罪悪感を和らげる効果もある。災害の事前、事中、事後に機能する重層的な言葉だ

 −震災から2年がたったが、被災者の罪悪感は減らない。
 「亡くなった人と事前にてんでんこを約束できているかが重要だ。約束があれば、犠牲者から『逃げて良かったんだよ』と許しを得られる。個人だけでなく、集落全体に浸透させれば『もっとなすべきことはあったはずだ』という自責の念から集落を解放できる」

 −自力で逃げられない要援護者の避難支援は考えられないのか。
 「確かに、避難と救助は相反する面がある。でも、考えてほしい。山下さんは、てんでんこにはどうしても救えない命があって、救えない選択を最後は許すと説明している。私はその言葉を、避難支援を含めてギリギリまで最善を尽くせ、という意味に解釈している」
 「地震発生から津波が襲うまでの各地の時間は、国の想定によって分かっている。時間を区切って高齢者や障害者を助けることはできる。子どもたちはてんでんこを徹底すべきだが、大人は身近な命をどう救えばいいか何度も話し合い、訓練を重ねてほしい」

 復興が進まないのは「公務員が無能なせい」ではありません。「復興予算の流用」でもありません。