津波被災の記録71

設計・施工一括の新CM/支払いはコスト・プラス・フィー/都市機構20120720建設通信
【女川町・復興面的整備を公告】
 都市再生機構(UR)は20日、CM(コンストラクション・マネジメント)を活用した設計・施工一括発注方式を採用する宮城県女川町の面的整備事業のプロポーザルを公告する。国土交通省東日本大震災の被災市町村をモデルに実施する考えを示していた方式で、CMr(コンストラクション・マネジャー)への支払いは調査や測量、設計、工事の原価にフィー(報酬)を加えた「コスト・プラス・フィー」とし、不確定要素のリスクに対応できる「リスク管理費」を事前に設定する方式も試行する。従来の業務だけのCMではなく、元請けが業務と工事を担う新しいタイプのCMで、CMの普及に向けた突破口になる可能性がある。
 女川町は19日、復興のための面的整備の事業実施協定をURと締結、URは工事、事業計画、換地、補償の総合調整を担う。ただ、大事業規模で短期間での完成が求められるため、URが従来担っていた施工調整や調査・設計、施工方法検討の部分をCMrが施工と合わせて担う。地元意向や関係機関協議が確定して早期に着工できる「早期整備エリア」と、まだ設計段階でURが計画と事業を受託していない「次期整備エリア」の事業実施についてURとCMrが基本協定を結ぶ。
 CMr選定は価格で競争しないプロポーザル方式を採用。価格は早期整備エリアの工事原価だけで交渉して契約し、調査、設計、測量などは実施する都度、URとCMrが請負契約を結ぶ。
 次期整備エリアは、URが町から事業を受託した際に改めて工事価格をCMrと交渉する。
 契約価格は、コスト・プラス・フィー方式を採用する。フィーは、積算要領から算定される一般管理費等(7.22%)に、調査・測量・設計・工事のマネジメントフィーとして3%を加算した計10%を目安として設定する。現場管理費、共通仮設費、直接工事費を基準価格とし、設計VE(バリュー・エンジニアリング)で工事原価を縮減できれば縮減分の50%をインセンティブとしてCMrに支払う。また、工事原価の縮減で工事施工部分の一般管理費も減少するため、その50%をインセンティブとする。
 大規模土木工事の実績を持つ企業がCMrとなり、工事や業務を下請けに発注する際はオープンブック方式を採用する。直接工事や詳細設計、調査・測量の一部を下請けに発注すれば、その費用を開示することになる。下請け選定の際にはURが地元企業活用などの条件を設定する。
 さらに、事業が大規模で見通せないリスクが発生する可能性があるため、契約時にあらかじめURとCMrが発生し得るリスクを抽出し、そのリスクに対応できる費用をあらかじめ「リスク管理費」として工事原価とは別に設定する。実際にリスクが発生すれば、リスク管理費の中からかかった費用を工事費に移転する。

連載・走り出したCM(1)20120723建設通信
【原価+フィーに集まる関心/大手と地元 役割分担で復興】
 都市再生機構(UR)が宮城県女川町の東日本大震災からの復興事業で採用する「新CM(コンストラクション・マネジメント)」に対し、建設会社が関心を寄せている。今回のCMは何が新しく、復興事業に導入した国土交通省の意図は何か、建設会社の関心の的とは何か――。新CMをめぐって期待と不安が交錯している。
 4月10日、前田武志国土交通相が、復興事業で新しい入札・契約方式を導入する考えを明らかにした。「新CM」が走り出した瞬間だ。
 東日本大震災からの早期復興が求められているにもかかわらず、被害が広域・甚大なため事業が大規模で、しかも高台移転など長期間を要する事業を進めなければならない。だが、自治体にそれらを早期に進める人的余裕がない。一方、地元建設業への配慮も必要になっている。この連立方程式を解こうと、国交省が打ち出したのが、今回の方式だ。
 「大手と地元の役割分担の透明化」。国交省の担当者は、新CM導入の意図の一端をこう解説する。大規模土木工事の実績を持つ大手建設企業がCMr(コンストラクション・マネジャー)となり、個別工事は地元建設企業が下請けとして実施する。確実な地元企業活用を担保するため、「オープンブック方式」を取り入れた。建設産業戦略会議の『建設産業の再生と発展のための方策2012』でも、「コスト構造の透明化や積算根拠の明確化、役割・責任分担の明確化に資する契約方式」として新CMを提示。「多様な事業領域・契約形態への展開を図る」としており、奥田建副大臣も「幅広い業界の経験や知識というものをより生かせる」と、新CMへの期待を示している。
 CMはこれまでも公共事業での採用の必要性を叫ぶ声があがっていた。それにもかかわらず、これまで建設会社からは敬遠されがちだった。
 国交省ではいままでにCMを数件試行したことがある。それでも普及しなかったのは、「計画や調整という業務だけでは建設会社が積極的に受注したいとは思わない」(業界関係者)という理由からだ。発注者を支援する「業務」だけのいわゆる「ピュア型」のCMに魅力は感じられなかった。
 それでも今回の新CMには関心が集まる。既に30社程度の大手建設企業が関心を示しているのだ。
 これは、マネジメント業務に加えて施工のリスクもCMrが負う「アットリスク型」的なCMを指向しているからだ。アットリスク型を国交省直轄工事で採用されたことはなく、東京都が新交通日暮里・舎人線車両基地整備事業で採用したアットリスクCMもCMrとの契約は「業務委託」だった。
 今回の新CMは、CMrとURの契約は「請負」。しかも、工事原価に10%のフィー(報酬)を加えた額が支払われる。設計業務も「請負」で設計原価にフィーが加算される。さらに設計VEもある。知恵とノウハウの勝負で確実な利益を見込めるのが建設会社が関心を示す理由の一つだ。
 建設会社の注目が集まる新CMだが、一方で不安も募っている。

※復興予算の効率的な消化(大都市に本社を有するゼネコン)による資材購入で進捗率は上がることで復興が進んでいるように見せるだろう。復興需要が一巡して年末には効果が薄れるとコンサルは喚いているから大都市圏に金を廻せとの督促に忙しく、被災地の工事は進捗していなくてもどうでもよい。コンサルティングの本質は「絵に描いた餅」に騙されるほうが悪い「自己責任」だから。

 新自由主義的な「透明化」による「業務委託」を「請負」工事成績点評価に反映させる(元請実績)ということがどのような帰結をむかえるのか、利益率の上限=フィー(報酬)を10%に設定しているのも上場企業にとっては配当に直結する数字を発注者より投資家向けにアピールできるほうが大きいだろう。

 地元の役割に対しては10%のフィー(報酬)が確約されたわけでもなんでもない。あくまで原価としての中身も適切な利益に配慮しているわけではない。むしろ今以上にシバキ上げられる可能性が高いだろう。シバキ上げが透明化するわけもないから。
 東京本社による原価管理は全ての総平均値に基づくものが採用された場合(現実に適用させている)、平地でギリギリのコストを高台移転地のような山地に平然と適用する。

 「大手と地元の役割分担の透明化」はそのまま、大都市に生きる者と地方に生きる者を明確化することに他ならない新自由主義的なサービスの細分化と選択を被災地の人々はどのように受け入れるのだろう。