津波被災の記録60

 11ヶ月目が過ぎたといっても、状況がそれほど変わっているわけではない。
 むしろ意図的に遅らせることが求められているのではないか?というのが頭の片隅にある。
 東京では反原発運動という時間を消費しても食える方達の「潜在的な意思」なるものが、如何に被災地を切り捨てる方便に如何様にも使用できるものを人々に与えたことに気付いてもいない。あの日から数か月間電気も無い生活をできたのは、プロパンガス家庭が多かったことによる。情報はラジオと伝聞のみの生活が共同体をどれほど不安に陥れ、疑念を表面化させたのかということの検証もせずに「新しい公共」なるものをどの口が言うのだろう。
 
 反原発運動という被災地切り捨て運動の絶叫を受け入れるつもりなどないが、行動経済学的なマーケテイング手法の一形態を駆使した、ガスタービン発電事業によるガス会社と商社のビジネス確立に寄与することでしかない。官民投資ファンドを考えている東京都やPPS(特定規模電気事業者)の主力はガス発電で風力・太陽光発電は単なる補完でしかなく、ドイツの環境というキーワードで市民ファンドによる公的補助金を支給することで、企業経営と市民(投資家)を保護する仕組みが現在の欧州危機(ドイツからギリシャへの投資が、そういうファンドで得た利益の再投資先)の面があるのに、どうやらそういうビジネスモデルに傾斜していくらしい。「新しい公共」の一面でもあって、その市民ファンドビジネスに群がるNPO・コンサルってなんなのか。

 オール電化住宅とCO2排出量取引が「原子力ルネサンス」の柱を担ってきたけれど、その一方で、ガス会社の経営を圧迫していたことがある。PPSはそういう部分への国による支援の一環でもあったけど、そういう部分よりソフトバンク商法の応用という方向へ向かったのは大都市部のネオリベ感覚故であろうか。90年代以降の通信インフラの整備が、家庭支出の偏在化を促進していくことで、それまでの衣食住への消費が減っていくことによる不況は制止できないものであった。他の業界への支出バランスを改善するために通信料の引き下げが行われていくことになるが、現在の過程における支出構成を改善せしめてはいない。通信料と電気料金、教育費(塾等)への支出が90年代以前と違っているため、大多数の消費者意識は個人で使用する金額の範囲が狭まったことから抜け出せないでいる。支出構造の改善という欲求が電力料金の引き下げを求めていることではあるが、地域電力会社の再分配機能は大きく損なわれることになるだろう。ガス会社と商社が担えるとは思えないのは、猪瀬直樹東京都副知事のようなネオリベ的手法による東電批判を行いつつ、子会社の品川再開発のために確実な賃料を支払われる優良テナントを集積するという部分があからさますぎるということもある。

 第一に石油もガスも何とか円高で価格上昇を辛うじて抑制している状態なのに、PPSは料金が安いとかいうけれども、FIT(固定価格買い取り制度)による国家の補助金が大量に入らないと(まあそのために中小零細企業対策としての特会の基金等を仕分けしろと言っていたわけだし)成立しないビジネスモデルがそんなに優秀な民間企業には不必要なものじゃないの?
 猪瀬副知事の言でいけば、ガス会社の料金値上げも認められないだろうし、総括原価方式による再分配機能の喪失とネオリベ的な価格(ネット保険会社の商品)要求ってことならガス会社とPPS事業者にコスト開示も合わせて要求するのが筋だろう。NTTの通信施設をタダ同然で使用して、メンテナンスコストを放棄するそういうソフトバンクビジネス=発送電分離を推し進めるというのが幅を利かせていることを見せつけられては、「被災地復興」「可哀そう」というキーワードでどれだけの人々が食い物にされるんだろう。気付いた時は「被災地の愚民どものせい」とののしられるのだろうな。

 復興プランにおける被災地活性化が、風力・太陽光発電と植物工場というのは救われない現実だ。植物工場による葉物を市場(地方公設市場等)を経由せず出荷することになれば、大都市周辺部の農業は壊滅する危惧があるし、流通構造において中小零細の問屋や自営業者は仕事を喪失することとなるだろうことは、3〜5年後にそういうことに気付いた時は手遅れになる。復興の美名のもとに大企業が望んだ通りの市場が出来上がる事だろう。中間層はより一層没落する。
 陸前高田市におけるワタミのビジネスは、既存の市場にコストを支払わないことが前提だ。
 
 物流関係の労働改善要求は、コンプライアンスを順守すればするほどコストと生産者への出荷時間の深夜化と荷主の高速道路無料化による料金の値下げ要求圧力を強めることになることも留意すべきことなのだけど、不思議とそういう話が出ないのは、毎度のことながら首をかしげざるを得ない。

(追記)
 FITを含む環境金融の前提条件は、インフレ率の設定と投資家へのリターンと銀行等への金利というのがあったはずで、この時期に「デフレ解消(これ自体は否定するものではないが)」とニチギンガー、ザイムショウガーの声が強まったFRBのインタゲにしても、一般教書演説における公共投資の拡大が語られていることはリフレ派は無視しているけど、米国の場合は投資ファンド=PFI方式によるだろうから、環境金融同様の前提が必要で、まあそういうもんだよね。としか言いようがないのです。