付加価値税と賃金と労働者 その4

付加価値税は労働者を正規・非正規に分断するのか

 建設業を含め日本の産業構造は大企業(上場企業)を頂点として、重層的構造になっていることが多いことで知られています。コンサルからは水平展開・垂直展開など様々な提案がなされるのですが、どれもメリット・デメリットがありますのでどれが正解だとは決められません。重層下請け構造解消として、3次下請けまでに制限する話もありますが、付加価値税への対応を考えると、どこが主体となって労働供給を行うのかが、課題となります。

 単純労働は禁止されている産業でもあり、技術者又は技能資格を有することが大前提で、ゼネコンなどの大企業は管理部門に特化した経営のため、現場労働者を供給するのは3次下請け以下の業者になっているのです。それを断ち切るということは、3次下請けに派遣会社又は派遣業務資格を有する建設業者しか残らないことになります。もともとの労務外注費や外注費の割合が7割と付加価値税対策へのシフトも含め労働者を分断することが生存戦略であると感じるところではあります。そうすると、連合の存在は労働者分断を至上命題としている組織であることになります。これは遅れているというより、凄まじく新自由主義的性質に特化しているように中小零細企業としては見てしまいますね。

 「分厚い中間層」は中小零細企業並びに自営業者が食える社会であるという感覚ですが、ある政党の「分厚い中間層」とは「(新)分厚い中間層」で、既存の中小零細企業並びに自営業者を淘汰した後、新規起業者、個人請負型就業者を指すというイメージしか浮かびません。

 労働貴族と化す連合組合員(正社員)以外は「個人請負型就業者」が占める社会構造を夢想しているとしか受け取れないのです。付加価値税増税並びに節税行動が、新自由主義とでは、受け取り方がこれほど違うのかという思いです

 「個人請負型就業者」には日本人だけではなく、外国人労働者が含まれる。つまりこれが「ダイバーシティ(多様性)」で「共生社会」だということになります。リベラルな方達の怖さというか、本性の悪辣さはどうにかならないものでしょうか。頭が痛いです。

 年功型賃金を守るために、徹底してそれ以外を破壊するそれが「連合」ということになりますが、ジョブ型雇用契約社会では「個人請負型就業者」はその職を得るための学歴・経験・実績が無い人がそれを得るための通過点と見るべきですが、年功型賃金社会では、それは職の固定化という定義なのかも知れません。

連合組合員「年功型賃金を守る為に、自分達以外は、ステップアップはさせない。」

 職務給によって、外部人材が入り込んでくることへの防衛措置として、年功型賃金は死守されなければならない。その結果として、「ダイバーシティ(多様性)は儲かる」「共生社会は素晴らしい」のかもしれませんが、そんな社会には住みたくないので、「(新)分厚い中間層」を唱える政党と支持者は政治の世界から消えてもらいたいものです。

 大企業労働者にとっても、付加価値税(消費税)がその重層構造に対し有効かつ効率的に課税されるがゆえに最終納税者となる宿命を帯びているところが反発される理由だと考えられます。上場企業や非上場大企業はその仕組みゆえに売上を落すことができにくく、かつ利益も落ちにくい、また、高所得な社員の給料・賞与を落すことは出来にくいのです。

 つまり国(財務省)は、上場企業や非上場大企業の経営者及び労働者の心理・行動を理解した上で付加価値税(消費税)へと課税をシフトしています。納税額の8割を上場企業や非上場大企業が納付する構造が揺るがないため、企業側がM&Aにより大きくなればなるほどその規模の宿命から安定財源としての重みを増すのです。そのため労働者が、分断したとしてもそのツケは国(財務省)が回収するのです。

次は、付加価値税と配当と株主の行動です。

※追記

 日本における構造改革である「働き方改革」を考えるうえで、付加価値税と日本型雇用(年功型賃金)は相性が悪いと感じています。欧米では標準であるジョブ型雇用契約労働組合の交渉能力を保全しつつ、その成果を取り込むことができるのに、日本の労働組合及び労働学者の考え方は、失う事ばかりをしているということです。

 マシナリさんや海老原 嗣生氏のように、日本型雇用とジョブ型雇用の折衷という現実的対応を考えて貰う人はかなり少数であることからも、今後も日本では賃金が上がることよりも、下がることが生産性を高める流れを止めそうにない印象を受けざるを得ない状況です。

 新自由主義型への親和性は、日本型雇用契約(年功型賃金)のほうが強いとも言える印象があります。これは、大企業労働者(連合組合員)や共産党労働組合員は真逆の考えを持っているかもしれませんが、中小零細企業側から見た場合、年功型賃金を維持するがゆえに、元下関係、発注者・受注者等の関係は、新自由主義的な手法での要求事項によって達せられた利益を移転出来ていると考えられるからです。つまり、賃金デフレを推進したきたのは、労働組合員そのものとなるのです。
 これを認めたくないからこさ政権批判に終始する行動をとっているようにしか見えないのです。

付加価値税と賃金と労働者 その3

付加価値税の納税額を上げる最低賃金時給1500円運動

 前回に、付加価値税(消費税)の納税額を上げるのは「労働価値(労働分配率を上げる)」を最大化することをお話ししました。米国における格差反対運動「オキュパイ・ウォール・ストリート」「ファイト・フォー・15ダラーズ(15ドルのための闘争)」を真似て、国会前デモ「最低賃金(時給)1500円」などをした学生たちがどこまで理解していたかは不明ですが、最低賃金(時給)1500円にすることは、付加価値税の納税額を上げる行為となります。まあ、あの学生の後ろにいる組織が教えていたとは思えませんし、普段は消費税増税反対、税金は戦費調達の方達ですからね。

 労働価値の増加により法人税は自動的に下がってしまいますが、所得税・住民税・法定福利費・消費税は増加する「ビルト・イン・スタビライザー」が機能しているともいえるし、「賃金の下方硬直性」の恩恵を最大限に生かすことができるからこその安定財源ということになります。

 時間外労働を削減し、ただ賃金総額を減少させる労働運動は、労働者に何のメリットも齎しません。同時に所定内給与を高めることが大事なのです。最低賃金(時給)1500円運動が、経営側の節税意識と労働分配率と配当バランスを無視している限りは難しいというか、単に無視される活動でしかありません。

付加価値税子ども手当並びに給付金 そしてベーシック・インカム

 民主党政権で誕生した「子ども手当」ですが、所得税・住民税に対しては、「年少控除廃止」という増税の代償を支払うことになりました。この制度はそれだけだったんでしょうか。実は、付加価値税(消費税)に対する影響もありました。付加価値税(消費税)を減税するもっとも有効な手段。それは所定内給与の削減です。

 でも日本の所定内給与は減っていませんでしたね。所定内給与を構成する「基本給」と「諸手当」のうち、「諸手当」を削減したのが「子ども手当」なんです。企業経営者は、「子ども手当」創設により「家族手当」等を廃止または削減しました。つまり所定内給与の削減により「付加価値税の減税に成功」したというわけです。付加価値税の減税は、所得税・住民税にまで波及するため影響は大きいと言えます。「子ども手当」が全額消費に消えることは無いのでなおさら景気に対しての効果は低く、将来の税収減により歳出削減圧力が強まることになります。

 リフレ派は何かと「給付金」または「ベーシック・インカム」を求めます。先ほどの付加価値税の減税という「行動」を考えてみてください。給付金やベーシック・インカムによる所得は、「所定内給与」削減圧力だということです。確かに、給付金やベーシック・インカムの所得には所得税・住民税は課税されないかもしれませんが、それは驚くべき副作用を伴うのです。

 所定内給与の削減は、将来の年金も下がることを意味しますし、法定福利費(健康保険料・厚生年金・雇用保険)の収入を落すことでセーフティネットを弱体化させるということになります。

 リフレ派が求めているものとは「所定内給与(賃金)の大規模な削減」となり、リフレ政策の根幹が「賃金削減による物価下落圧力を高める」「納税額を減らし、歳出を削減する」「民間企業の現金保有を高める」ことにあるのは間違いありません。

 飯田泰之明治大学准教授等が奨めるリフレ政策は「賃金削減」なしには達成しえないことになります。また、井上 智洋 駒澤大学経済学部の教員/早稲田大学非常勤講師/慶應SFC研究所研究員の「ヘリコプターマネー」も「節税」「セーフティネットの破壊」「民間企業現金保有増」の仕組みへの対応となります。

追記※経営者にとって都合の良い話は新自由主義型の「小さな政府」になりがちで、大きな政府による社会全体の厚生とは真逆の動きというのが良く分る事例となります。ベーシック・インカムはその見た目と違い、「勤労意欲の減退」以上に「持続可能な社会(サステナブルソサエティ)」を揺るがす「社会への参画意欲の減退」の実害が大きいのではないかと考えられます。

付加価値税と賃金と労働者 その2

付加価値税可処分所得ガー

 「付加価値税は逆進性がある」と言われています。それは、所得税累進課税が緩やかになったことから、低所得者への課税が強くなったという批判です。
 ただ、付加価値税(消費税)のマクロ的な課税科目から見た場合の課税で、低所得者一人一人に対して課税はしていません。「役員報酬」「給料・賞与」「福利厚生費」の総額に対する課税であり、労働者に支払った後の決算時での企業課税となりますので、労働者一個人への付加価値税の課税は行われていないのです。

 リフレ派は付加価値税(消費税)で、「可処分所得が減った」と言いますが、給与支払い時に消費税は課税されていませんので、給与から税控除は出来ない。つまり、可処分所得を減らしていないのです。付加価値税率が商品及びサービスに対し「見える化」するのは、マクロ経済学での法人税等の価格転嫁額を表示する行為そのものになりますから「貨幣錯覚」でしかないと考えます。

 所得税の累進強化が緩んだ背景には付加価値税よりも、住民税への税源移譲。いわゆる「地方分権改革」があります。みなさんは毎年6月の給料から新しい住民税が徴収されます。所得税がリアルタイムで課税するのと違い、1年遅れで課税されるのが住民税です。そのため、年功型賃金による定期昇給を打ち消すような税額により可処分所得ガーが起きているのです。様々な所得を合算して申告した結果、ダブルワークの給与所得、配当所得、一時所得などにより住民税が昨年より増加してびっくりすることは良くあることなのです。
 
 また、企業業績が好調で昨年は賞与がたくさん出た労働者の皆さんの住民税は高くなっていることが多いのです。可処分所得を減らすのは住民税の方が強くなっていることが分かりますね。これが地方分権改革により国から地方への税源移譲(所得税から住民税へ)によるものだからです。年配の労働者は年末調整で還付された金額が多く年末は同僚と飲食に費やしたり、家族へ還元したりということがありましたが、今では殆んど還付はありません。それは国は預かった税金を理由があれば返還するのに対し、地方自治体は返還する能力そのものが無いからです。

 リフレ派から忌み嫌われる財務省の闇の権力「国税庁」と地方自治体の徴税部門の職員の能力も違うこともありますが、そもそも地方自治体が住民に還付する能力を備えていないからなのです。そのため、住民税の計算間違いによる返金はあっても、年末調整で住民税還付は発生しません。所得税が6割、住民税が4割という構成だった時代では、年末調整で2割が還付されていましたが、地方分権改革で所得税が4割、住民税が6割となったため還付はほぼなくなってしまいました。これも消費が減った理由の一つかも知りません。この税源移譲が所得税の累進強化を下げることとつながっていました。原因は付加価値税だけではないんです。

 では何故、付加価値税を悪者にするのかというと、住民税が高まって得する地方自治体とはどこでしょう。最大は東京23区です。それに各政令指定都市、県庁所在地が続きます。要は人口が多い市区町村ほど有利になる再分配縮小政策を行ったということです。これは衆議院選挙制度改革での1区とも連動する話でもあり、構造改革による歪みなのです。

 可処分所得ガーとは、構造改革の歪みに対するクレームのはずが、真実を知られたくない人達にとっては、付加価値税を犯人に仕立て上げて逃れるための取り組みだと私は思うのです。

付加価値税と賃金と労働者

 つづきにあたって、『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』(慶應義塾大学出版会)玄田有史東京大学教授編集で「標準的な経済学の教科書をのぞいてみると、人手不足もすなわち労働市場の需給が逼迫すると、価格調整機能にしたがって実質賃金が上昇し、新たな均衡が実現する、と必ず書かれています。」の続きとして「賃金の上方硬直性」という特異な現象が起きいていると問題提起されるところから始まります。

 賃金が上がらないことで労働者は不利益を被っていると捉えられる向きもあり、それが自然と思います。ただ、hamachan先生と金子良事法政大学大原社会問題研究所兼任研究員の最近の遣り取りは、労働者・労働組合の交渉能力の源泉とは何か、ジョブ型雇用(職務給)に対し、年功型賃金(日本型雇用契約(無限定雇用))を重視する、金子良事氏の切れ具合と、冷静な指摘に終始するhamachan先生のかみ合わなさが日本の労働組合運動が劣化した理由であり、欧州左派である欧州の労働組合が企業経営者側と交渉能力を喪失せずむしろ経営側の要求を受け入れながら労働者側の実利を確実に獲得する手法の源泉が「ジョブ型雇用」であるというhamachan先生の強い信念を感じさせられる出来事でもあり、まさにその通りですとしか言いようがなく、付加価値税(VAT)への対応を考えるうえでも非常に参考になるものです。

 そうなると依然読んだhamachan先生の「日本の雇用と労働法」の「報酬管理システムと法制度」や「日本型雇用システムの今後」は、付加価値税(VAT)に対する行動とは何かから見ると日本の労働組合やその周辺が相当遅れたものであることを改めて再認識することにもなりました。

 また、「新しい労働社会」での「働き過ぎの正社員にワークライフバランスを」「賃金と社会保障のベストミックス」は、欧州の労働組合の現実に向き合い獲得する利益を考える行動と日本の労働関係者(NPO法人POSSE(ポッセ)今野 晴貴)等の活動(時間外労働等)を比較すると、いまだに子供レベルの議論でしかなく、どれほど遅れたものであるか痛感させられてしまいました。


http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/post-fa0b.html

http://ryojikaneko.blog78.fc2.com/blog-entry-469.html


付加価値税(VAT)でワーク・ライフ・バランス

 付加価値税のマクロ的な課税科目である「給料・賞与」、いわゆる「賃金」と言われるものの塊が「物価」であるため付加価値税はインフレ税としてみることができます。それはリフレ派経済学者「インフレ税から逃れることは出来ない」も述べている通りでもあるからです。また、インフレ税が課税している「労働価値」「剰余価値」は資本主義経済を採る以上逃れられない証明でもあるからです。

 経営者にとって時間外労働(手当)とは「現金が給与と税金で二重に流出する」現象です。キャッシュフロー経営を行う経営者やコンサルにとっては由々しき事態です。さて、どうしましょう。一番手っ取り早いのは労働者に頭を下げて、「定時で帰宅して貰う事」。出来なければ、半強制的に「退社を促す」ことになりますから、今どきの大企業が取っている行動はどのような動機からでているかということが分かりますね。

 それでも帰宅しない労働者対策として「インターバル規制」を導入せざるを得なくなります。過重労働対策という面が強調されて12時間の休息を命じられますが、労働者自身が業務内容への取組みを調整し定時勤務へと回帰を促すのですが、経営者側にとっても実に利益があることが分かると
思います。

 ただ日本では、年功型賃金により時間外手当を「生活給」にしてしまう傾向が非常に強いことで知られています。
 これは、行動経済学での「初期保有効果」の「参照点」を労働者が所定内給与ではなく所定外給与を含めた給与総額で見ていることを表しています。経営者と労働者の交渉はどのようになるのでしょうか。職務が限定されているジョブ型雇用に「節税対策」という労働は入っているんでしょうか。日本型雇用(無限定)であれば、企業方針という言葉で、職務遂行を求められますが、ジョブ型雇用では、新人教育やゴミを拾う行為も含め「それは私の仕事には入っていない。別の人の仕事です。」で終了となります。
 欧州の労働組合は経営側の要求を達成するための報酬を要求することになります。ジョブの追加(手当加算)です。つまり無料ではないという、経済学での「フリーランチは無い」をしっかりと叩きつけるのです。この労働交渉が可能なのは職務が明確にされているから追加要求が通るし、それにより新たに得た賃金総額は「初期保有効果」の「参照点」の更新となり、一度手にした権利を下げない「下方硬直性」を維持するのです。欧州の労働者は定時で終了する契約をする見返りに賃金を獲得するのですから、それを奪われない為に、定時で仕事を終了するように努力します。その帰結が「生産性の向上」なのです。

 日本とオランダの労働者を比較し「生産性が低い」と言われる日本人労働者は比較する状態ですらないのに、どうしても比べられてしまいます。これは日本の労働組合及び周辺の労働学者の「貨幣錯覚」から来ているのかもしれません。『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』でも書かれている通り、日本の所定内給与は下がってはいないのです。つまり労働交渉ができず、得られるべき賃金を捨てているのではないかと考えられるからです。そのため、金子氏が年功型賃金に固執し、職務給批判(賃金が下がっている)をするのはどうも筋が違うとしか思えません。

 ワーク・ライフ・バランスは、労働者と経営者双方が本来WINWINの関係を得るべき手法であることを欧州の労働組合は見せてくれているのですが、日本の場合は、過重労働ガーに終始し先に進もうとしません。私としては、付加価値税(消費税)が8%から10%になることを前提として動いている経営者と有利に交渉できる時間を無駄にしていることが残念でなりません。

付加価値税と賃金と経営者 その4

付加価値税は本当に賃金抑制なのか

 経営者の経営方針で、賃金は確かに抑制的になりましたが、所定内給与を減らすには至っていませんし、非正規雇用への転換、賃金体系の見直し、ベースアップと賞与と時間外労働の削減が主でした。現在でもその方針は変わっていませんので「時間外労働の削減」を「ワーク・ライフ・バランス」と称して付加価値税(消費税)の節税対策を推進しているのです。平成30年度(2018)に税率を8%から10%に変更することに対応するために、企業経営者がとる「時間外労働削減」の「行動」は付加価値税(消費税)の節税対策に沿ったものともいえるわけです。

 政府による賃上げ要請を含め定期昇給最低賃金引き上げ圧力は継続して行われ、所定内給与を押し上げ続けております。しかし、雇用契約の構成比率の変化(年功型賃金の賃金カーブのフラット化)やベースアップの事実上の廃止(付加価値税の上振れ抑制)を重視すると賃金を抑制していると言えます。
 
 ただ総人件費の調整として、所定内給与(固定給)を増やすために時間外手当・休日出勤手当・賞与(変動費)から振り替えているとも見て取れるのです。これは賃金の変動費を固定費(経済学では「固定費用」、会計学経営学では「固定費」)へ付け替え、長期的に一定化することで、損益分岐点を固定化することになります。固定費削減では消費者でもあり企業にとっては利害関係者への不利益は企業自身の不利益となって帰ってきます。

 それはデフレで痛いほど経験したことでもあります。EUでの労働組合によって、時間外労働(手当)削減と所定内給与への付け替えを日本企業が行う流れを「賃金抑制」と見るのは難しいと私は思います。

次回は、付加価値税(消費税)と賃金と労働者の行動について考えます。

付加価値税と賃金と経営者 その3

付加価値税を嫌う理由とその集団の思考

 この仕組みを一番嫌うのが、大学教授と金融セクターと派遣会社です。米国でもそうですが、報酬の高い社員がゴロゴロいる金融セクターにとって、高額な報酬が消費税納税額を増やしているということは我慢ならない事です(所得税累進課税が緩くなっても実質課税しているのが、付加価値税(消費税)です)。

 大学教授は報酬の他に教材や講演料等の利益を得ていますが、個人事業主・法人事業主として課税されることになります。ダブルワーク等の二つ以上の所得がある方達への課税強化というのも大事ですね。普段はリベラルぶっているのに納税して相対的貧困解消に使われるのが厭だというのは、知識労働者の知的劣化の象徴そのものとも言えます。

 派遣会社は派遣法改正により雇用契約を締結すると、いままで払わずにすんでいた消費税の納税額を支払うことになります。これはサービス産業全体の人件費割合が高い構造によるものですが、サービス産業に対する課税強化に働く仕組みであるのが、付加価値税の特徴の一つだからです。一次産業から二次産業へ。そして三次産業への転換及び拡大という経済の流れへの対処が付加価値税なのです。

 また保険会社にとっては、保険商品が法人税の節税対策として売り出しているところがほとんどですが、消費税の節税対策にはならないため付加価値税(消費税)に対する憎悪があるのです。

 そうそうリフレ派の経済学者が付加価値税(消費税)を気に入らない理由として「法定福利費」もありました。小泉構造改革で「消費税増税凍結」と絶賛するリフレ派ですが、付加価値税(消費税)の仕組みでは、「法定福利費」である社会保険料(健康保険料・年金保険料・雇用保険料)の増加は消費税の納税額を上げていることになります。社会保険料の増加は所得税・住民税減税になるのは控除の仕組みによるものですが、不課税費用であるため仮払消費税を減額しないのです。

 まして小泉構造改革による下請へのコストカットを要求し達成していればそれは、外注費(課税費用)の減少ですから、下請けいじめの代償は消費税で回収されているとも見ることができます。そのため下請けいじめをせず、外注費を適正価格で支払うことが消費税の節税だといえるのです。トヨタのやっているカイゼンはそういう意味では節税対策にはなっていませんが、それはトヨタの真意は別のところにあるからです。

 消費税が3%から5%へと上がった1997年を「消費税増税永久不況説」「消費税増税税収消滅説」の論拠としているのがリフレ派や経済学者ですが、主に効率化、雇用の流動化などの提言は「消費税に対する節税対策(賃金抑制)」ということになりますので、剰余価値(コストバフォーマンス)を高める提言を前提としていることになりますが、それでは「賃金デフレは妄言」ではなくなってしまうのです。さらにリフレ派が「供給制約ガー」のさいに使用した「おちんぎん」というのは「賃金デフレ」を肯定することになる失言で自爆です。

 ついでにリフレ派が大好きな法人税減税について述べますが、コンサルやセミナーでの税金対策の殆どは「法人税対策」ですが、付加価値税(消費税)の節税対策セミナーはありません。大企業経営者の行動は法人税対策から付加価値税対策へと変遷していることへ対応できていないのです。また、中小零細企業経営者も同様です。

 しかし、大企業は確実に対応をシフトしております。「労働分配率を高めることが法人税減税だ」と考えるのと同様に、「減価償却費を高めることが法人税減税だ」というのもあります。航空機リースやマンションリースで減価償却費を計上する手法ですが、付加価値税(消費税)では「不課税」ということで、マクロ的には課税されていることになります。
 
 法人税減税をしてもあまり効果はないということなります。つまりリフレ派の主張する「リフレ政策唯一の財政政策法人税減税」は、企業経営にとってあまり効果が無い財政政策であるのです。

 リフレ派・反リフレ派共に課税に対する考え方は違えども、「課税回避行動」は同じです。双方ともから付加価値税(消費税)は憎まれるのはこういうことからです。

付加価値税と賃金と経営者 その2

付加価値税のマクロ的な課税科目から見る「節税行動」

 「不課税」「非課税」というのは、「消費税が掛らない」で得をしたというのは消費者側から見た場合ですが、納税者側から見ると真逆になるのです。「収益−費用」「益金−損金」ではなく「(不・非課税費用+利益(−損失))×付加価値税率(消費税率8%)=課税収益(仮受消費税)−課税費用(仮払消費税)」となり、赤字でも納付するとは人件費を節税対策で過大に計上しても何の意味もないということだからです。

 共産党指揮下の全商連(全国商工団体連合会)と民商(民主商工会)が盛んに「消費税増税反対」を主張するのですが、その最大の理由が「役員報酬や家族への給料を支払って、法人税減税の恩恵を受けても消費税で回収される。納税して悔しい。自分以外の貧困対策に使われるなんて耐えられない。」という不満です。共産主義者が資本家への所得移転への課税措置に対して不満を述べるというのが中々興味深いところでもあります。

 さらに「付加価値税(消費税)は輸出戻し税で大企業が儲かる」というのもありますが、マクロ的に見て課税されているのが国内の「労働価値(所得)」なのですから、他国へ納税するのは無理があります。そのため還付されて当然だともいえるのです。つまり関税などの間接税ではなくほぼ直接税であると捉えて貰う事が必要になります。

 付加価値税(消費税)が10%の際に導入される軽減税率の考え方も同様です。消費者側は「税率が安い」と思いますが、納税者側は「税負担が増える」となります。これは仕入れ税額控除の課税科目とは、消費税の納税額を減じる(減税圧力)であるのに対し、軽減税率は納税額を減じる額を少なくする制度(増税圧力)だからです。消費者と納税者ではことなる視点が必要となり、納税者である経営者はその対応に苦慮するのです。

 そのため、リフレ派経済学者飯田泰之明治大学准教授が「軽減税率反対」を唱える理由は、「消費者には良いが、納税者である自分には都合が悪い(納税額が増える)制度」であるのがわかります。リフレ派経済学者の経済政策が「歳入抑制及び歳出抑制」になるのも行動経済学「損失回避特性」に基づく認知特性の表出そのものなので、非常に分かり易い行動です。リフレ派経済学者が思考の原点である「初期保有効果」の「参照点」を納税額においていることが明確に分かることになる事例なのです。

 ただ、日本の場合、新聞・雑誌などが対象となりますが、ご安心を。マスメディア関係者は日本でも有数の高所得者が多い企業ですから、高い人件費分の付加価値税(消費税)納税額が減ることはありません。但し、新聞を購入する納税者(ホテル等)は増税になるので、対応がはっきりとでる可能性があります。

 消費税の不課税・非課税科目とは何でしょう。主だったものを挙げると、※勘定科目は産業によって違います。それぞれの企業会計に合わせることが必要です。

収益科目(非課税)
売上(商品券)、不動産(土地)売上、土地賃借料、住宅家賃・共益費収入、リース料収入(金利相当)

費用科目(非課税・不課税)
役員報酬、従業員給料・賞与、退職金、法定福利費、福利厚生費(慶弔費用、共済)、出向料、支払手数料(信販会社への手数料、海外送金手数料)、支払運賃(国際輸送)、販売促進費(図書券、ビール券等)、接待交際費(商品券、慶弔費用)、車両費(自賠責、重量税)、減価償却費(有形・無形・繰延資産)、地代家賃(社員寮、地代)、通信費(国際電話料金、国際郵便)、租税公課(固定資産税、印紙、自動車税、各種証明書等)、寄付金、諸会費(年会費)、保険料(生保・損保)

営業外収益(非課税・不課税)
受取利息、受取配当金、為替差益、有価証券売却益、雑収入(受取保険金、賠償金等)

営業外費用(非課税・不課税)
 支払利息・割引、信用保証料、資産評価損、有価証券売却損、雑損失(違約金、賠償金)

 経営者は売上と利益の他に節税対策を行います。
 これは未来永劫変わらぬ問題ですが、では付加価値税(消費税)の節税対策とは何でしょう。費用科目で一番金額が大きい不課税科目は「従業員給料・賞与」です。次いで「役員報酬」「法定福利費」「減価償却費」「保険料」となっていきます。そのため課税費用の割合が高まれば、消費税が減ることを利用して「従業員給料・賞与」「役員報酬」「法定福利費」を「外注費」に置き換える脱税行為が後を絶ちません。共産党は「労働者派遣(労務外注費)」に置き換えれば消費税を節税できるとしているのは確かにそうですが、派遣会社は雇用した社員へ「従業員給料・賞与」「法定福利費」を支払わなくてはいけませんから、派遣会社を調査すれば、脱税かサービスの提供かを判別することは簡単です。いまでは派遣会社は雇用契約によって拘束されるので「従業員給料・賞与」「法定福利費」を適切に支払わなくてはいけません。それは「消費税」を適切に納付することでもあります。
 つまり、付加価値税(消費税)の納税額を上げるのは「労働価値(労働分配率を上げる)」を最大化することになります。でも人件費の増加で法人税は自動的に下がってしまいますが、所得税・住民税・法定福利費・消費税は増加する「ビルト・イン・スタビライザー」が機能しているともいえるのです。
 しかし、費用の増大により「剰余価値」が、あまり下がり過ぎれば、株主・投資等は配当が貰えなくなりますから「物言う株主(ハゲタカ様ともいう)」は、経営者に苦言を呈するようになります。そうすると経営者は調整が求められることになりますので、労働価値の抑制を行う経営も考えるようになる。というわけです。

 消費税を減らす節税は、課税費用割合を高めることになりますが、それは不課税科目である「従業員給料・賞与」「役員報酬」「法定福利費」「減価償却費」「保険料」等を減らすということになります。「プロパー社員を派遣に置き換える(派遣労働者の増加)」「短期労働者を増やす」「賞与の抑制」「時間外労働の抑制」「給与体系の改正」「設備投資抑制」などでしょうか。その結果、不課税科目の減額で消費税は節税したかもしれませんが、コストカットした分「剰余価値」が増大することになります。経営者も株主も儲かったということになるのでしょうか。残念ながらそうではありません。付加価値税(消費税)は「剰余価値」にも課税されているのです。

 マクロ的に見ると最終的に課税される大科目とは「付加価値=労働価値+剰余価値」でしたね。課税逃れができにくい構造になっているのが付加価値税の特徴と言えます。経営者が利益を出そうと人件費を削減して得た利益にもしっかり課税され、国・都道府県の再分配の原資へと使われることになります。内部留保ガーというのは、人件費抑制によって得た利益によって成り立っていると見てしまいがちですが、大企業の場合は殆んどが、海外子会社との連結会計によるものです。中小零細企業についても人件費抑制で内部留保を積み増しするのは難しくなっているのが本当のところです。